松かさ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
松かさ(まつかさ、conifer cone, pinecone)とは、松の果実のようなもの(毬果あるいは球果)のことである。松毬・松傘・松笠とも書き、「松毬」は「ちちり」「ちちりん」とも訓読する。
まつぼっくり・松ぼくりともいう。これは、「松陰嚢(まつふぐり)」が転訛した語である。「松ぼくり」は晩秋・植物に分類される季語となっている[1]。英語の“pineapple”(パイナップル、パインアップル)は、本来は「松の果実」という名前の通り松かさのことであったが、後に松かさに似た別の果物、すなわち現在の「パイナップル」を指すようになった。(この場合の“apple”は、リンゴではなく単に果実を意味する)
構造 [編集]
クロマツやアカマツの種子は、雌花を構成する鱗片の裏面につく。この鱗片は、主軸に螺旋状につき、全体としては卵形、あるいは卵状楕円形の塊になる。その外面は鱗片の先端の広がった部分によって覆われ、種子の位置する鱗片のすき間は、鱗片先端が膨らんで、互いに密着することで、その内部に閉じこめられ、外から見ることはできない。これが松かさである。
種子を中に含む構造という点では果実に類似するが、雌しべの子房に由来する真の果実ではない。種子の成熟には2年かかるので、マツの枝を観察すると、先端に今年の雌花、1年枝の根元に昨年から成長した未熟な松かさ、更に下には種子を放出した後の松かさがついているのが確認できることがある。種子を放出してしばらくすると、松かさは根本からはずれて地上に落ちる。このとき、松かさは大きく開いてやや球形に近くなる。
機能 [編集]
アカマツやクロマツのように風による種子散布を行う種においては、種子が成熟すると、松かさを構成する鱗片は反り返り、そのすき間を外に広げる。風散布性のマツの種子には種子翼という羽根状の付属物がついており、松かさから地上に落ちる間に風に乗って散らばる。
ハイマツやチョウセンゴヨウのように動物による散布を行う種においては、種子が成熟しても松かさが開くことはなく、動物が種子を捕食する際に松かさごと運ばれてこぼれることで散布を行う。日本の高山帯に分布するハイマツの散布者としてはホシガラスが重要である。チョウセンゴヨウはリスなどによる貯食に依存している。
山火事に依存した種子散布を行う種もある。アメリカのヨセミテ国立公園などに生えているコントルタマツPinus contorta(ロッジポールパイン/Lodgepole Pine
)は、火事になるとその硬い松かさが開き種をこぼす。この地域のように山火事が多い地域ではそれに適応した繁殖を行なう植物も数多い。こぼれた種子は火事のあとの焼け野原で発芽し、森林が再生する。逆に、火事が起きないとコントルタマツの松かさは開かないとも言えるため、このヨセミテ国立公園では山火事も自然現象のひとつとして捉え、火事が起きても火を消さない。その他の球果植物門の植物の場合も、構造的には松かさのようなものを作るが、外見が大いに異なるので、松かさと認識されがたい。